こんにちは。株式会社MMOLの大森です。
前回の「オフィス業務編」に続き、今回はリテール業界に焦点を当てたトレンド予測です。
特に注目されている「パーソナライゼーション」をテーマに、2025年下半期のAI活用を見据え、企業が今取り組むべきことをご紹介していきます。
1.消費者動向の変化
はじめに、「パーソナライゼーション」とは、顧客の情報や購買行動などを分析し、その顧客に最適な情報やサービスを提供するマーケティング手法のことです。
UNIQLOのお買い物アシスタント「IQ」や、資生堂の非接触型の最新肌測定機器「Beauty Alive Circulation Check」、ZOZOTOWNがGoogleの「Recommendations AI」を採用するなど、すでに多数の企業が導入を始めています。
その大きな要因として、”新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響”、そして”AI技術の急発展”による消費者動向の変化が挙げられます。
パンデミック期間中はオンライン上のサービスやショッピングの利用が急増し、ECのおすすめ機能などが多くの消費者の目に触れたことによって、パーソナライゼーションが標準サービスとして認知されました。
また、AI技術の発達で、より顧客一人一人に合ったマーケティングが行えるようになり、オンラインや店舗、モバイルアプリ、ソーシャルメディアなどの複数のタッチポイント(接点)での一貫した体験が実現可能になりました。
グローバルのパーソナライゼーション市場においても、2024年の4,982.2億ドルから2025年には5,252.1億ドルに達し、年平均成長率(CAGR)5.4%で成長すると予測されています。
(出典:
RESEARCH AND MARKETS|Artificial Intelligence (AI) Based Personalization Market Report 2025)
注目すべきは消費者側の意識変化です。
最新調査では消費者の83%がAIを活用したパーソナライゼーションに好意的な反応を示し、前年比で30%以上の伸びを記録しました。特にZ世代では27%が既に買い物にAIを活用しており、パーソナライゼーションが「期待されるサービス」として定着しつつあります。
(出典:
MarkeZine|買い物の際にAIを活用するZ世代は27% Adyen「リテールレポート2025」を発表)
このような市場環境の変化により、2025年後半以降のパーソナライゼーションは、一部の先進企業が提供する特別なサービスからより一般的なサービスになることが予想されます。
つまり、今後導入を検討する企業にとって重要なのは「導入するかどうか」ではなく、「いかに質の高いパーソナライゼーションを構築するか」ということです。より高度な設計や運用を行っている企業に成果の差が現れるようになります。
2.データ設計の重要性
パーソナライゼーションで最も重要なのは、「顧客を理解すること」です。
あなたのブランドは、どの程度の顧客データを集めているでしょうか?
パーソナライゼーションにおいてAI活用は欠かせませんが、同じAIでも提供するデータ次第で分析結果が大きく変わります。
AIは「腕のいいシェフ」です。美味しい料理を作るためには、より良い食材(データ)と、レシピ(ブランドごとのデータ設計)が必要です。
そのため、どのAIやツールを使うかよりも、まずデータ設計を考えることをおすすめします。
「顧客データ」と言われると、顧客名や好み、前回の注文内容といった基本の項目が思い浮かびがちですが、業界やブランドごとに蓄積するデータは異なります。
例えば、飲食店ならアレルギーや苦手な食べ物、記念日に利用したならその日付などが挙げられます。
日々の業務で顧客のどんな情報を・どのように収集するかを予め設計し、マニュアルにしておくといいでしょう。
独自性の高いデータは模倣されにくく、あなたのブランドの財産となり、顧客満足度向上や他社との差別化に繋がります。
3.データ設計の考え方
では、何をどのようなデータにすれば良いのでしょう?
顧客が求めるパーソナライゼーションの実装には、かなり深い情報が必要になります。
考え方として、美容院の「カルテ」をイメージしてみてください。初めての美容院に行くと記入する、あれです。
名前や住所、電話番号、誕生日などの基本的な情報はもちろん、髪質、カラー剤でかぶれたことはあるか、今まで美容院でされて嫌だったこと、施術中は話したい派?そっとしておいてほしい派?など、かなり細かな質問項目がありますよね。
美容師さんはカルテの顧客データを事前に把握した上で、ヘアスタイルの提案と施術が行えます。他のアシスタントさんも同じ情報を見られるわけですから、情報レベルを合わせた接客が行えます。
これは、まさにパーソナライゼーションのためのデータ設計のお手本であり、全てのビジネスで使える汎用性の高い仕組みです。
まずはこの考え方を参考に、あなたのブランド独自の顧客データを設計してみてください。
4.実践的なデータ設計の手順
持続可能なデータ設計を行うための最初の一歩として、一般的な手順を簡単にまとめてみました。あくまでも一般例として参考になれば幸いです。
①ヒアリングする項目を決める
顧客が求めるパーソナライゼーションを意識して項目を決めていきましょう。
例えば、化粧品のスキンケア分野であれば、以下のような項目があります。
項目例・・・
《基本属性》 氏名、連絡先
《基本記録》 購入方法、金額、頻度、オンライン利用
《ニーズ》 目的(贈答用、自分用)、課題(乾燥肌、シワ、毛穴など)
《禁忌・制約》 アレルギー、避けたい成分、NG体験(合わなかった化粧品など)
《嗜好》 香り、テクスチャ、価格帯
《その他》 来店動機、同伴者
②データフォーマットを決める
運用時にどのスタッフでも扱いやすいフォーマットを選ぶことをおすすめします。
自社の基幹システムでも良いですし、Excelやスプレッドシートなどを利用するのも良いでしょう。
③入力ルールを決める
最低限のルールがあるだけでも運用時に迷いが少なく、入力しやすくなります。
全てのスタッフが同じレベルになるように日々調整していくことをおすすめします。
【ルール例】
・選択肢+補足を基本とし、自由記述は最小限に
・カラー、サイズ、素材などの語彙を予め決めておき、そこから選ぶ
・入力するタイミング(当日中など)
5.成功に向けた運用のポイント
AIを活用したパーソナライゼーションを継続的な成果へとつなげるためには、データ設計だけでなく「運用」の質も非常に重要です。
以下のようなポイントを押さえて、実践的かつ持続可能な仕組みを構築していきましょう。
1. 収集データの品質管理
定期的にデータをチェックし、ルールをアップデートする。
2. スモールスタート&PDCA
最初は限られた項目とチャネルでテスト運用を開始。分析結果と施策効果を定量的に評価し、改善施策を実行する。
3. クロスチャネルの一貫性
すべての顧客接点でデータ項目を揃える。
4. スタッフ教育とマニュアル整備
顧客ヒアリングやデータ入力の手順をマニュアル化する。
5. ガバナンスとセキュリティ
個人情報保護法や業界ガイドラインに準拠した運用フローを策定。
6. 顧客とのコミュニケーション設計
ニュースレターやアプリ通知の頻度・タイミングを最適化。アンケートやヒアリングを基に施策に反映する。
7. 長期的な効果測定
LTV(顧客生涯価値)やリピート率といった指標を設定し、中長期的にモニタリングする。
これらの運用ポイントを押さえることで、AIを活用したパーソナライゼーションが社内の文化として根付き、お客さまへの高い価値提供が持続的に実現できます。
いかがでしたでしょうか?
「何から始めればよいか分からない」
「自社に合った設計方法を相談したい」
そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
現場の実情を理解したパートナーとして、一緒に最適な形をご提案します。