AIで成果を『拡張』した会社の意外な順番

AIで成果を『拡張』した会社の意外な順番

|佐藤明日美

定着支援に関する、面白い事例を見かけました。

1年以内の離職率を半減させた泥臭い定着支援 生成AIで“個への寄り添い”を3万人へ拡張できるか (HRzine)

医療・介護・保育の現場で約3万人のスタッフを抱えるソラストという会社が、1年以内の離職率を半減させることに成功。そして今、その取り組みを生成AIで拡張しようとしているという記事です。

何が面白かったかというと、AI導入までの道のりがよく聞く事例とは少し異なったのです。


泥臭く社員と向き合うことからのスタート

ソラスト社が離職率を下げるために初めに行なったことは、とても地道なものでした。

入社して間もないスタッフに定期的にアンケートを実施し、「仕事に慣れているか」「職場の人とうまくいっているか」などを入社2週間後から1年目までの間に何度も繰り返し尋ねる。

徹底していたのは、アンケートの回答率が100%になるまでフォローを続けたことです。
答えてくれない人ほど離職リスクが高い、という分析に基づいて、未回答のスタッフ一人ひとりに本社のスタッフが個別に連絡を取る。「入社に満足していない」という回答が出れば、本社から直接連絡して話を聞く。

記事には「労力は甚大であった」とありました。3万人規模の会社でこれを人の手でやりきるのは、想像するだけで気が遠くなります。

でも、その泥臭い伴走には明確な成果が出ました。
1年未満の離職率が施策前の半分になり、翌年も減少が続いている。退職代行を使った離職もなくなったそうです。


ノウハウが貯まってからAIに渡す

ここまでなら「人が真剣に向き合って離職減らした話」で終わります。面白いのはこの先です。

ソラスト社は、この人海戦術には限界があることも分かっていました。
3万人規模の会社で、本社スタッフがつきっきりで社員一人ひとりを追いかける運用を続けることは現実的ではありません。

そこで、生成AIの活用に踏み出します。

ソラスト社には、これまで社員に向き合ってきた中で得た「どんな傾向のスタッフに、どんな言葉をかけ、どう対応すれば定着につながったか」というデータが社内に蓄積されていました。それをAIに学習させることで、人がやっていたケアを引き継がせようとしているのです。

つまり、AIに渡す中身は、人が泥臭く向き合ってくる中で積み重なった知見そのもの。先に人がやりきっていたからこそ、AIに渡せる情報に厚みがありました。


人が地道にやってきたことが原資になる

多くの会社のAI活用は、「まずAIを入れて効率化しよう」から始まります。人手が足りない、時間がない、だからAIに任せる。

でもソラストは逆でした。先に人が手を動かして知見を貯めて、それからAIに渡している。

この順番の違いは、決定的だと思います。

AIは、何もないところから価値を生むわけではありません。学習させる元になる「人の知見」があって、初めてそれを拡張できる。
ソラスト社がAIに個別のケアを任せられるのは、本社スタッフが3万人に泥臭く向き合ってきた蓄積があるからです。その土台がなければ、AIでできることも限られてしまったはずです。


私自身、自分の仕事の一部をAIに任せられないかと考えたことがあります。

実際に取り組んで気づいたのは、AIに渡せる中身を持っているのは、これまで地道に現場で向き合ってくる中で積み重ねてきた経験と知見があるからだ、ということでした。その積み重ねがなければ、結局汎用的なことしかできないAIになってしまいます。

「AIに任せる」という言葉は、つい「人がやらなくて済む、人はやらなくていい」という意味に聞こえてしまいます。
でも実際は、人が手を動かして向き合ってきたことが、そのままAIに渡す原資になる。手を抜いていた領域は、AIに渡すこともできないのです。


AIの前に人の実践がある

AI活用というと、人の仕事を置き換える話だと捉えられがちです。
でも、ソラスト社の事例が示しているのはその逆かもしれません。

人が泥臭く向き合って、知見を積み重ねる。その実践があって初めて、AIはそれを引き継ぎ、広げることができる。
AIは、人がやってきたことの上に乗るものであって、人がやってこなかったことを肩代わりしてくれる魔法ではない。

だからこそ、AIをうまく使いたいと思ったときほど、まず問われるのは「自分たちは、その仕事にちゃんと向き合ってきたか」なのかもしれません。

ちなみに私自身は、まだその知見をAIに渡しきれてはいません。普段何気なく行っていることや判断基準をいざ言葉にしようとすると、驚くほど難しい。
でも、その難しさ自体が、これまで現場で積み重ねてきたものが確かにあるという証なのだろうと今は思っています。


社内の知見整理からお手伝いします

AIを業務に取り入れたいけれど、「何から手をつければいいか分からない」「導入してみたものの、思ったように機能しない」——そう感じている方は少なくありません。
その多くは、AIに渡すための現場の知見がまだ整理されていないことが原因です。

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