評価面談で、こういう言葉が出てくるようになりました。
「彼は、AIをうまく使っていて仕事が速い」
一見ポジティブな評価です。ただ、少し立ち止まって考えたいのは、それは何を評価したことになるのか、という点です。速いこと自体は成果ではありません。速く出したものが、直しなしで通っているかどうかは、また別の話です。
AIが現場に入ると、評価と育成の目盛りが静かにズレていきます。今回は、そのズレをどう補正するかを整理します。
AIが入ると、評価の目盛りが3か所ズレる
1. 量が増えるので、成果が出ているように見える
提案書もメールも企画案も、明らかに増えます。ただ、増えた分だけ受け手のレビュー負荷も増えている。全体で見ると仕事が減っていないのに、個人の評価だけが上がる、ということが起きます。
2. 速さは見えるが、質の劣化は遅れて出る
出力が速いことはその日に分かりますが、詰めの甘さは差し戻しや顧客からの指摘という形で数週間後に出ます。評価のタイミングと、結果が出るタイミングがずれています。
3. 「うまい人」が個人技として褒められて終わる
「あの人のプロンプトはすごい」で止まると、会社には何も残りません。褒めた瞬間に、属人化が承認されてしまいます。
評価すべきは「使えること」ではなく「止められること」
AIを使えること自体は、もうスキルとして差がつきにくくなってきています。差がつくのは、どこで使わなかったかの判断です。
管理職が見るべき軸は、この3つに絞れます。
軸1:差し戻しの量で見る
アウトプットの本数ではなく、「一発で通った割合」「手戻りの回数」で見ます。速いけれど毎回直しが入る人と、少し遅いが直しがない人。後者を正当に評価できているかどうかがポイントです。
軸2:どこでAIを止めたかを聞く
「この部分はAIに任せず、自分で確認しました」と言える人は、業務の勘所を分かっています。評価面談で「どこは使わなかった?」と一言聞くだけで、理解度がかなり見えます。
軸3:型を周囲に残したか
自分だけが速くなったのか、周りも速くなったのか。手順や判断基準をチームに共有した人を、明確に評価する。ここを評価対象にしないと、いつまでも個人技のままです。
育成側ではもっと静かな問題が起きている
日本総研は、生成AIが「文書の下書き、データの整理、定型対応」といった業務を代替していくことで、「就職はできたけれど、仕事を学べなかった世代」が生まれかねない、と指摘しています。
これらは、若手が仕事の基本を覚えるためのエントリー業務でした。下書きを何度も作り直すなかで、何が良い文章か、どこで判断が必要かを覚えてきた。その入口をAIが担うと、育成の順路そのものが消えます。
しかも、この影響が表面化するのは、その世代が判断を担う立場になる5〜10年後です。今は誰も困っていない。だからこそ、意識的に設計しないと手が打たれません。
対策は「あえて人にやらせる工程」を決めること
全部を手作業に戻す必要はありません。決めるのは、どこを訓練の場として残すかです。
つくらせるより、直させる
AIの出力を若手にレビューさせ、「なぜここを直したか」を言葉にしてもらう。ゼロから書かせるより短時間で、判断力の訓練になります。
完成物ではなく、判断の理由を提出させる
「この案にした理由」「採用しなかった案」をセットで出してもらう。AIが書けるのは案であって、理由は本人にしか書けません。
順番を1つ足す
訓練のためにAIを使わない日をつくるのは、生産性を落とすわりに長続きしません。代わりに効くのが、AIに投げる前に、自分の結論を3行だけ書くというルールです。
「誰に向けて」「何を伝えたいか」「落としどころ」。
これを書いてからAIを使うと、出てきた案と自分の案の差分が見えます。この差分そのものが教材になります。所要2分で毎回できますし、前提を整理してから投げるぶん出力の質も上がるので、訓練と成果が両立します。
現場を見ていると、AIにうまく指示できる人は、たいてい後輩にもうまく指示できる人です。曖昧な依頼を分解し、前提と条件を言語化する力。見ているものはマネジメント能力とほぼ同じで、AI教育はその前倒しとして機能します。
管理職が決めるべきこと
- 評価基準に「手戻りの少なさ」を入れるか
- 「型を共有した人」を評価対象にするか
- 若手の訓練用に、どの業務を人の手に残すか
- それを、誰が決めて誰が見直すか
AIの導入可否よりも、こちらのほうが数年先に効いてくるのではないでしょうか。
参考