「今月、どうして外注費が増えているんだろう?」
「この取引先だけ、支払条件が違うのはなぜ?」
「来月から1人採用したいけれど、今の数字で進めてよさそう?」
経営者や管理職であれば、こんなことを確認したくなる場面があると思います。
そのときに返ってくるのが、「ちょっと確認します」という言葉。
もちろん、確かめてから答えるのは大切なことです。ただ、その確認が終わるまで、判断を保留していることもあるのではないでしょうか。
今回は、経理担当者の作業時間だけでは見えにくい、経営者・管理職が「知りたい」と思ってから、判断材料が揃うまでの時間について考えてみたいと思います。
質問は一言でも、答えるまでにはいくつもの作業がある
たとえば、「今月、外注費が増えた理由を知りたい」と聞いたとします。
担当者は会計ソフトで金額を確認し、前月の数字と比べ、該当する請求書を探す。必要に応じて、発注した部門にも事情を聞く。そこで「繁忙期に対応するため、今月だけ追加発注した」と分かれば、次に確認したいのは、その対応が来月も続くかどうか… 他の費用で増えているものも知りたいかも…
最初の質問は一言でも、答える側では、数字の確認、資料探し、関係者への問い合わせ、背景の説明が発生しています。
しかも、その担当者には本来の仕事があります。月末の締め作業や支払処理の途中なら、すぐに対応できるとは限りません。
聞く側にとっては短い確認。答える側にとっては、いくつもの作業。この差が、日々のやり取りの中では見えにくいのだと思います。
経営側にも「待つ時間」が発生している
業務改善を考えるとき、私たちは作業する人の時間に目を向けがちです。
資料を探すのに何分かかったか。
回答をまとめるのに何分かかったか。
一方で、経営者や管理職が回答を待っている間にも、止まっていることがあります。
追加の発注を承認する。
取引先との条件を見直す。
採用の予算を決める。
もちろん、回答を待っている間は別の仕事もできるので、待ち時間のすべてが損失になるわけではありません。ただ、判断を翌日に持ち越したり、確認のためにもう一度会議を開いたりするなら、影響は担当者の作業時間だけには収まりません。
担当者の確認作業は20分でも、回答が届くのは翌日。その間、決めたいことが保留になる。こうした場面を考えると、作業時間だけでは捉えきれないものがあります。
「担当者が何分働いたか」と「判断できる状態になるまで、どれくらいかかったか」。この2つは、分けて見た方がよさそうです。
数字があっても、その理由までは分からない
会計ソフトを開けば、売上や経費の数字は確認できます。でも、経営判断で知りたいのは、金額だけではないですよね。
たとえば、ある取引先の利益率が低い場合。
過去の契約で特別な価格を約束しているのかもしれません。今月だけ追加対応が発生したのかもしれません。あるいは、条件を見直すべき状態が続いているのかもしれません。どの事情なのかによって、次の行動は変わります。
ところが、その背景は契約書、メール、打ち合わせの記録、担当者の記憶などに分かれています。数字は見えているのに、「なぜそうなっているのか」を確認するには、結局、詳しい人に聞く必要があるわけです。
こうした状態が続くと、その人が不在の日は確認が進まず、異動や退職の際には経緯をたどること自体が難しくなります。担当者が覚えてくれている間に、その知識を会社として残せるかどうか。ここは、経営側が考えておきたいところです。
まずは、繰り返している確認を3つ拾ってみる
では、何から始めればよいのでしょうか。
私は、経営者や管理職が何度も聞いている質問を、まず3つだけ拾ってみるのがよいと思います。
「この入金は確認できている?」
「この支払いは、誰の承認が必要?」
「この取引先の条件は、いつ見直す予定?」
その中から、繰り返しが多いものや、回答を待つことで判断が止まりやすいものを1つ選び、次の3点を整理します。
1. 答えるために、何を見ているか
会計ソフトなのか、契約書なのか、過去のメールなのか。資料にはなく、担当者の記憶を頼りにしているのか。
答えにたどり着く道筋を確認すると、どの情報を揃えればよいか、誰にしか分からない事情があるかが見えてきます。
2. 回答と一緒に、理由や期限を残す
「社長承認済み」だけでは、後から見た人には十分でないことがあります。
いつ、どの条件で承認したのか。
今回だけの例外なのか。
いつまで有効で、いつ見直すのか。
すべてを長いマニュアルにする必要はありません。次に同じことを聞かれたとき、経緯をたどれる記録から始めればよいと思います。
3. 記録を更新する人を決める
取引条件や社内ルールは変わります。過去の回答が残っていても、それが今も有効か分からなければ、また人に聞くことになります。
誰が更新し、どれが最新の情報なのか。そして、誰がどこまで見てよいのか。経理担当者に「まとめておいて」と依頼するだけでなく、記録を維持する時間や役割まで決めることが、経営・管理職の仕事だと思います。
AIの使いどころは、資料探しと前提の整理にある
ここで、AIを使える場面が出てきます。
複数の資料から関連する情報を拾う。数字を比較する。過去の対応を整理する。資料で確認できたことと、まだ人に聞く必要があることを分ける。
たとえば、外注費が増えた理由を調べるなら、会社で利用が認められたAIに、参照してよい請求書や発注記録、関連メールを渡して、次のように頼むことができます。
この資料から、外注費が増えた理由に関係する記述を整理してください。資料で確認できる事実と、まだ確認が必要な点を分け、根拠となる箇所も示してください。理由が書かれていない場合は、推測で補わないでください。
AIの整理結果を担当者が確かめれば、最初からすべての資料を読み直す負担を減らせる可能性があります。
経営者や管理職も、確認できた事実を踏まえて「追加発注は来月も続くのか」「一時的な増加として予算内に収まるのか」と、相談したい点を絞りやすくなります。
ただし、AIが参照先を示していても、読み取りや計算が正しいとは限りません。重要な金額や条件は、元の資料に戻って確認する必要があります。
その「前提をまとめる作業」が、実は大変
AIを使ううえで難しいのは、会社の事情が、最初から整理された状態で揃っているわけではないことです。
過去のメールを探す。担当者に経緯を聞く。古いルールが今も有効か確認する。資料によって内容が違えば、どちらが現在の条件なのか確かめる。
「AIに聞けばすぐ分かるようにしたい」と思っても、その前提をまとめる作業そのものに、手間がかかります。
経理担当者に通常業務と並行して任せれば、かえって負担が増えることもあるでしょう。経営側がすぐに効果を求めても、担当者は情報を揃える段階で手いっぱいかもしれません。
だから、最初から会社の情報をすべてまとめようとする必要はないと思います。
先ほど選んだ1つの質問について、必要な資料と、担当者だけが知っている事情を整理する。まずは、その範囲から始めればよいのです。
整理自体にもAIは使えます。メールから関連する記述を拾わせたり、担当者への聞き取りメモを整理させたり、資料間で条件が食い違っている箇所を挙げさせたりする。そのうえで、抜けている事情や、現在も有効な条件かどうかを、詳しい人が確かめます。
前提の整理にもAIを使いながら、その前提が正しいかは人が確かめる。 そうした進め方が、実務には合っているのではないでしょうか。
採用や投資などの最終判断は経営者が行う。税務上の判断は税理士などの専門家に相談する。その前に必要な材料を揃える工程で、AIを活かしていくという考え方です。
確認したことが、次の判断に使えるようにする
「ちょっと確認します」というやり取り自体は、仕事に必要なものです。
考えたいのは、その確認で分かったことが、次にも使える状態で残っているかどうかです。
毎回同じ資料を探し、同じ人に経緯を聞いているなら、確認のたびに同じ手間と待ち時間が発生します。
一方で、数字とその背景、判断時の条件が残っていれば、次に確認する人は、そこから考え始められます。AIも、その情報を探し、比較し、足りない確認事項を整理するために使いやすくなります。
経営者や管理職が考えたいのは、どの確認から整理するか、誰が内容を確かめるか、そして、そのための時間をどう確保するかです。
まずは、最近社内で交わした「ちょっと確認します」を振り返ってみてください。
何を探していたのか。誰の記憶を頼りにしていたのか。その回答を待つ間、どんな判断が保留になっていたのか。確認したことが次にも使えるようになれば、担当者が同じ説明を繰り返す負担を減らせます。経営者や管理職も、すでに分かっていることから考え始められるようになります。
そうして、毎回ゼロから調べ直す時間を減らすことが、「知りたい」と思ってから、判断材料が揃うまでの時間を短くする一歩になるのだと思います。