決算の質問票は、1年分の記録の答え合わせ

決算の質問票は、1年分の記録の答え合わせ

決算を楽にする、取引の「一言メモ」と先回り確認のすすめ

|日出嶋有希子

決算の時期になると、税理士さんから質問票が届きます。

「〇月〇日の〇〇への支払いは、どのような内容でしょうか」
「この入金の相手先と内容を教えてください」
「この支出は、資産として計上すべきものではないでしょうか」

一つひとつは短い質問なのに、答えようとすると手が止まってしまう。そんな経験はないでしょうか。私自身、質問票を開いて「この振込、何だったっけ」と考え込み、通帳や過去のメールをさかのぼって、ようやく一問に答える、ということを何度も繰り返してきました。

質問票への回答に時間がかかるのは、決算の作業が特別に難しいからではありません。多くの場合、日々の記録が「後から聞かれたときに答えられる形」になっていないことが原因です。

質問票は、いわば1年分の記録の答え合わせです。この記事では、質問票の回答に時間がかかる理由を整理したうえで、来年の決算を楽にするために日々の業務で何を残しておけばよいか、そして回答をどうまとめればよいかを紹介します。

質問票の回答に時間がかかる4つの理由

質問票の対応で手が止まる場面は、だいたい次の4つに分けられます。

・取引の中身を覚えていない:半年前、1年前の支払いが何のためのものだったか思い出せない
・根拠の資料が見つからない:契約書や請求書がどこにあるかわからず、探すのに時間がかかる
・自分だけでは答えられない:代表や他の担当者に確認しないと、内容がわからない
・何を聞かれているのかがわからない:質問の意図がつかめず、何を答えればよいか迷う

それぞれ原因が違うので、対処の仕方も変わります。順番に見ていきます。

「覚えていない」をなくす:取引の目的を、その場で「一言メモ」しておく

半年前、1年前の取引を覚えていないのは、当然のことです。人の記憶に頼っている限り、この問題はなくなりません。だからこそ、取引が発生したその時点で、目的を一言残しておくことが大切です。

▼ 摘要やメモ欄に「何のための支出か」を書く

会計ソフトに取引を登録するとき、相手先と金額だけでなく、「何のための支出か」を一言書いておきます。

・「〇〇社 コンサルティング料」ではなく「〇〇社 新規事業の市場調査の業務委託(〇月分)」
・「〇〇 飲食代」ではなく「〇〇 取引先〇〇社との打ち合わせ(3名)」

一行増えるだけですが、決算のときに見返すと、ほとんどの質問はこの一言で答えられます。

▼ 毎月「いつもと違う取引」だけを抜き出してメモする

すべての取引を詳しく記録するのは現実的ではありません。そこでおすすめなのが、月に一度「いつもと違う取引」だけを抜き出して、少し詳しくメモしておく方法です。

・初めての取引先との取引
・金額がいつもより大きい支払い
・内容がひと目でわからない入金や出金
・代表や役員が関わる取引

質問票で聞かれるのは、こうした取引であることが多いです。毎月まとめておけば、決算のときには、そのメモを見返すだけで済みます。

「資料がない」をなくす:証憑の置き場所と名前のルール

質問に答えるとき、「根拠となる資料をお送りください」と言われることもあります。そのたびに、メールや共有フォルダ、紙のファイルを探し回るのは大きな負担です。

▼ 置き場所を一つに決める

契約書、請求書、見積書、領収書など、取引の根拠になる資料の置き場所を決めます。紙で受け取ったものもデータ化して同じ場所に保存しておくと、探す場所が一つで済みます。

▼ 後から検索できる名前を付ける

ファイル名には、後から検索しやすい情報を入れます。たとえば「日付_取引先_内容」の順で付けるルールにしておくと、質問票に書かれた日付や相手先から、すぐに資料をたどれます。

・例:20260315_〇〇社_業務委託契約書
・例:20260331_〇〇社_請求書_3月分

会計ソフトに資料を添付できる場合は、取引の登録と同時に添付しておくと、さらに探す手間が減ります。

「自分では答えられない」をなくす:確認は決算前に先回りする

質問票の中には、経理担当だけでは答えられないものがあります。代表が個人的に立て替えた支払い、営業担当が決めた取引条件など、事情を知っている人に確認する必要があるものです。

決算の時期にまとめて確認しようとすると、相手も1年前のことを覚えておらず、確認に時間がかかります。忙しい代表をつかまえるのに数日かかることもあります。

▼ 毎月か四半期ごとに、まとめて確認する

先ほどの「いつもと違う取引」のメモを作るときに、自分でわからないものに印をつけておき、月に一度、あるいは四半期に一度、まとめて確認します。記憶が新しいうちであれば、相手もすぐに答えられます。

▼ 相手が答えやすい聞き方をする

確認を頼むときは、相手が短時間で答えられる形にします。

「次の3件について、内容を教えてください。わかる範囲で選んでいただければ大丈夫です。
・〇月〇日 〇〇社へ〇〇円の支払い → A:業務委託 B:備品の購入 C:その他( )
・〇月〇日 〇〇からの〇〇円の入金 → A:売上 B:立替金の返金 C:その他( )
・〇月〇日 〇〇での飲食代〇〇円 → 同席者と目的を教えてください」

一件ずつチャットで聞くよりも、まとめて一度に聞くほうが、相手の負担も少なくなります。選択肢をつけておくと、相手は思い出しやすく、答えもそろいやすくなります。

「意図がわからない」をなくす:税理士が確認したいことを知る

質問票の文面が短いと、何を答えればよいのか迷うことがあります。税理士の質問には、たいてい確認したい背景があります。よくあるのは次のようなものです。

・費用か、資産か:一定金額以上の購入は、資産として計上する必要がないかを確認している
・いつの取引か:前払いや未払いがあり、期をまたいで計上されていないかを確認している
・誰との取引か:役員や関係会社との取引は、内容や金額の妥当性を確認している
・何のための支出か:交際費や寄付金など、税務上の扱いが変わる支出かどうかを確認している
・事業に関係する支出か:個人的な支出が混ざっていないかを確認している

質問の背景がわかると、答えるべき内容も見えてきます。たとえば「この支出の内容を教えてください」という質問でも、金額が大きい備品の購入であれば「何を、いつから、どのくらいの期間使うものか」まで答えると、税理士は判断しやすくなります。

▼ わからないときは、聞き返してよい

それでも意図がわからないときは、遠慮せずに聞き返します。

「〇番のご質問について、〇〇という理解で合っていますか。それとも〇〇の点を確認されたいということでしょうか。」

推測で答えて、やり取りが何往復もするより、最初に意図を確認したほうが、結果的に早く終わります。

回答を書くときの型

回答は、次の順番で短く書くと、税理士にとって確認しやすくなります。

・結論:何の取引か、どう処理したか
・根拠:契約書や請求書などの資料(ファイル名や添付)
・補足:判断に必要な事情があれば一言

例:
「〇〇社への業務委託料です(3月分の新規事業の市場調査)。契約書と請求書を添付します。契約期間は〇月〜〇月の6か月で、毎月定額の支払いです。」

文章を整えることよりも、税理士が判断に必要な情報がそろっているかどうかを意識します。

来年を楽にする:今年の質問票を保存しておく

質問票に答え終わったら、そこで終わりにせず、質問と回答を記録しておくことをおすすめします。

・どんな質問が来たか
・どう答えたか
・答えるのに時間がかかった理由(覚えていなかった、資料がなかった、など)

並べてみると、毎年同じような質問が来ていることや、同じ理由でつまずいていることが見えてきます。たとえば「毎年、役員との取引について聞かれている」とわかれば、来年はその取引だけ日々のメモを詳しくしておけばよい、という具体的な改善につながります。

質問票は、1年分の記録の答え合わせです。答え合わせの結果を、次の1年の記録の仕方に戻していくことで、毎年少しずつ楽になっていきます。

人・仕組み・AIの役割分担

質問票の対応を、人・仕組み・AIの役割で整理すると次のようになります。

・人が担うこと:取引の事実を確かめる、代表や担当者に確認する、最終的な回答を決める
・仕組みにすること:一言メモの書き方のルール、資料の置き場所と名前のルール、月次や四半期の確認タイミング、質問票の記録
・AIで補えること:質問の意図をかみ砕いて説明してもらう、回答文の下書き、取引の一覧から確認が必要そうなものを抜き出す

AIに質問票の文面を見せて「税理士はこの質問で何を確認したいと考えられますか」と聞くと、意図をつかむ手がかりになります。ただし、取引の事実を知っているのは社内の人だけです。AIの下書きは、事実を確認したうえで、人が直して使うことが前提です。

まとめ

決算の質問票に時間がかかるのは、決算の作業が難しいからではなく、日々の記録が後から答えられる形になっていないからです。

・取引の目的を、その場で「一言メモ」しておく
・毎月「いつもと違う取引」だけをメモしておく
・資料の置き場所と名前のルールを決める
・自分で答えられないものは、決算前に先回りして確認する
・質問の背景を知り、わからなければ聞き返す
・今年の質問票を記録し、来年の記録の仕方に生かす

まずは、今年届いた質問票を保存し、どんな質問が多かったかを分類するところから始めてみてください。来年の決算で、どこを準備しておけばよいかが見えてくるはずです。

MMOLでは、決算や税理士とのやり取りを含めた経理業務の整え方を、現状の整理から一緒に進めています。「毎年、決算のたびに慌ててしまう」「記録のルールをどう決めればいいかわからない」といった段階からでも、お気軽にご相談ください。

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