議事録の要約、メールのたたき台、求人票の下書き。
AIに任せる仕事は、ここ数年で着実に増えました。もう、一部の先進的な会社に限った話ではありません。
パーソル総合研究所が正規雇用者1万1千人あまりに聞いた調査では、生成AIを業務で使用している人は54.3%(2026年5月時点)。半年で12.4ポイント増えたという結果でした。
AIを業務で使用している人は、ついに半数以上になりました。
そうなると、次に出てくるのは採用の話です。
AIを使いこなせる人を採用したい。求める人物像にAIリテラシーの一行を足す。
そんな動きは自然に思えます。
ところが、仕事の成果を分けていたのはAIの使用量ではありませんでした。
もっと手前にある、人の特性のほうが入れ替わっていたのです。
何が成果を分けていたのか
この数字が出ているのは、パーソル総合研究所が2026年7月に発表した「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」です。
全国の就業者2万人へのスクリーニング調査と、正規雇用者3,300名への本調査で構成されています。
目を引いたのは、同じAIヘビーユーザーの中でも成果に差がついていた、という結果でした。週4日以上AIを使う1,106名を、メタ・スキルの高い層と低い層に分けて比べています。
仕事のやり方を見直している、AIを前提に成果水準を上げている、仕事のスピードが上がっている。こうした項目にあてはまると答えた割合が、3.3倍から3.6倍違っていました。
成果の差を分けていたのはAIの利用頻度ではなく、この「メタ・スキル」だといいます。
調査では、「メタ・スキル」を集める(構造的整理)、決める(優先順位づけ)、確かめる(実地検証)、壊す(レジリエンス)、蓄える(組織知の更新)の総称として定義しています。
要はAIをどれだけ使うかではなく、AIを使う前と使った後に何をしているかで差がついていたというのです。
差が出ていた場所
調査はもう一歩踏み込んでいます。
ハイパフォーマーとローパフォーマーの差が大きかった特性を、AIを使っていない層とAIを頻繁に使う層とで並べているのです。ここが今回いちばん興味深いところでした。
AIを使っていない層(300名)で差が大きかったのは、「相談力、対人感情のケア、対人関係調整」。人とうまくやる力です。
一方、AIを頻繁に使う層(1,106名)で差が大きかったのは、「自律的な好奇心、レジリエンス、時間軸の長さ、脱・二分法思考」といった思考の特性でした。 加えて行動面では、事前情報整理や優先順位付けが挙がっています。
ここだけを見ると「対人から思考へ移った」とまとめたくなります。ただ、職種や年代といった属性を統制した分析を見ると、影響が強く出ていたのは思考そのものより行動の側でした。
優先順位の調整、共有と改善ループの調整、事前情報の構造化。失敗しても次に活かせると考えるマインドも、思考特性より強く出ています。
調査では、成果の差が「タスク遂行能力」から「タスク前後のメタ・タスク」と「思考の質」に移ったとまとめています。
作業そのものではなく、その前と後。取りかかる前に前提と論点を整えられるか、終えた後に検証して次に残せるか。そこが差になっていた、という読み方が正確だと思います。
しかしながら、読み方には留保が必要です。 この比較は、差が大きかった項目を抜き出したものです。挙がっていない特性が要らなくなった、という意味ではありません。
成果の指標も本人の回答にもとづくもので、相関が示されただけで因果ではない。それでも、見るべき場所が動いているという示唆は残ります。
変わらなかった二つ
面白いのは、すべてが入れ替わったわけではないことです。
両方の層に共通して、ハイパフォーマーとローパフォーマーの差がついていた項目が二つありました。
行動スピードと、メタ視点(一段上から全体を捉える視点)です。 メタ視点については、属性を統制した分析でも両方の層に残っていました。
速く動けること、そして自分の仕事を俯瞰できること。AIの使用有無にかかわらず、これができる人は成果を出しやすいと言えそうです。
もう一つ、対人的なものが完全に消えたわけでもありません。
AIを使う層には、フィードバック・シーキングという項目が残っています。自分から意見を求めに行く行動です。
相談力が「相手に相談できること」だとすれば、こちらは「自分で取りに行くこと」。待つ側から取りに行く側へ、向きが変わったのかもしれません。
これは私の解釈ですが、そう読むと筋が通ります。
変わった部分と、変わらなかった部分がある。どちらかに寄せて考えないほうがよさそうです。
中小企業でどう効くか
この調査は全国の正規雇用者を対象にしていて、企業規模で切った数字は示されていません。
ですが、規模が小さいほうが影響は大きいはずだと考えています。
少人数の組織では、一人の採用が部署の性格を変えます。
管理部門を数名で回している会社ならなおさらです。採用した人のやり方が、そのまま部署の標準になっていきます。
求める人物像がずれたまま採用しても、大企業のように人数で薄めることができません。
採用要件に反映する前に
とはいえ、「AIを活用して成果を出せる人を採用したい」と思った時に、この調査結果をそのまま求める人物像に反映することはできません。
採用要件を書き換える前に、確かめることが3つあります。
◇その仕事はAIを前提にした進め方になっているか
調査が比べたのは、AIを使う層と使わない層です。自社の仕事がまだ対人の調整で回っているなら、相談力や役割認識が効く要件のままで正しい。
先取りが必要かどうかは、自社の仕事の進め方によります。
◇求める特性を活かせる環境が社内にあるか
好奇心や、外しても試し続ける姿勢を要件に置くなら、小さく試せる場と外すことを許す評価が必要です。それがないまま採用すると、その人は半年後に指示を待つ人になります。要件に書くことは、環境をつくる約束とセットです。
◇前提を渡す側の準備ができているか
事前情報の整理や優先順位づけが差になっていたのは、AIに渡す前の工程が仕事の質を決めるからです。ただし個人がそこに力を注げるかどうかは、会社側が背景や目的を渡しているかに左右されます。
同じ調査でも、仕事の枠や裁量の範囲を示す上司のもとで、部下の成果が高いという結果が出ていました。
3つとも整っているなら、要件を書き換える段階にあります。詰まるところがあるなら、書き換える前にやることが残っています。
求める人物像の設計から
私たちMMOLは、採用の支援と、業務設計やAI活用の支援の両方を提供しています。
どちらか一方だけを見ていると、求める人物像と実際の働き方がずれていきます。 何を人に求め、何を仕組みやAIに任せるのか。この切り分けが、そのまま採用要件になります。
AIが変えたのは業務の進め方だけではありません。
誰を迎えるかという入口の設計も、静かに書き換わっています。
「求める人物像は、今の自社の働き方に合っているだろうか?」
3つの確認に詰まるところがあったなら、一度お話をお聞かせください。
何を人に残し、何を仕組みに渡すのか。MMOLでは、そこを一緒に整理するところから支援を始めます。
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