「いい会社」なら、誰にとってもいい職場なのか

「いい会社」なら、誰にとってもいい職場なのか

|佐藤明日美

採用では、自社の良さを知ってもらうことが基本になります。 

働きやすい制度がある。事業に将来性がある。社員同士の関係がいい。成長できる環境がある。
どれも伝えるべき情報です。

ただ、会社としての魅力が伝われば、その人にとっていい仕事かどうかまで伝わったことになるのでしょうか。


同じ会社の中にある差

2026年7月、アメリカの非営利団体Burning Glass Instituteが「Good Company, Wrong Job」という調査を発表しました。
アメリカの大手企業1,750社、約1,200万人の職歴を分析したものです。職種ごとに、昇進や定着率、給与を比較しています。

同じ企業の中で最も条件のよい職種と最も条件の悪い職種の差は、平均して81パーセンタイルポイントに達したと報告されています。
全職種を順位づけしたときに、同じ会社の中に上位に近い職種と下位に近い職種が同居している、という意味です。

アメリカの大企業を対象にした調査なので、雇用慣行の異なる日本に、まして中小企業にそのまま当てはめることはできません。

それでも、評判のいい会社に入れば、どの職種でも同じように恵まれた環境で働けるとは限らない、という指摘は残ります。
会社は一つでも、そこで働く人の体験は一つではないからです。

そして、職種によって差があること自体は、それほど問題ではありません。
事業への近さも、任される裁量も、職種によって違うのが普通です。

問題になるのは、その差が候補者から見えないまま選考が進むことです。


書きやすい職種と書きにくい職種

採用支援をしていると、職種によって求人の書きやすさがはっきり違います。

会社の中心事業に直接関わる職種は、比較的その会社らしい求人が書けます。
どんな顧客の課題を解決するのか。商品やサービスにどんな特徴があるのか。その仕事が事業の成長にどうつながるのか。事業の説明が、そのまま仕事の説明になります。

難しくなるのは、経理や人事、総務のように、多くの会社に存在する職種です。

仕事内容だけを並べれば、他社の求人とほとんど変わりません。月次決算、給与計算、労務手続き。どこの会社でも同じ言葉が並びます。
そこに会社の理念や事業の魅力を足しても、「この会社でこの仕事をする意味」までは見えてきません。

以前は、会社の魅力をうまく伝えられれば、その職種の魅力も伝わると考えていました。 実際には、その間にもう一段あります。

同じ会社でも、任される役割も、日々関わる人も、評価されることも違います。
求職者が入社するのは会社ですが、毎日向き合うのは具体的な仕事です。

会社の名前が補ってくれない

ここで、会社の規模による差が出てきます。

大手企業や、名の通った商品やサービスを持つ会社であれば、「あの会社で働く」ということ自体が選ぶ理由になります。
職種の説明が弱くても、会社の名前がある程度まで補ってくれる。

中小企業には、それがありません。会社の名前で選んでもらえない以上、「この会社でこの仕事をする意味」を言葉にするしかない。
ところが、それがいちばん難しい。

先ほどの調査が対象にしていたのは、アメリカの大手企業でした。
看板のある会社ですら、中に入れば職種によって差があります。看板のない会社であれば、候補者はその会社を選ぶ理由を、職種の説明から見つけるしかありません。

会社の魅力に頼れない職種ほど、その職種固有の情報が必要になります。
書きにくいから情報が少なくなる、という順番になりがちですが、実際には逆です。書きにくい職種ほど、渡すべき情報は多い。


魅力だけを伝えたときに起きること

自社をよく見せたいと思うこと自体は自然です。
求人を作るときには、その会社で働く魅力をできる限り探します。

ただ、いいところだけを切り取ると、あとでズレが生じることがあります。

たとえば、リモートワークやフレックス制度。
求職者にとって魅力的な条件ですし、実際に働きやすさにつながっている会社もあります。
一方で、自由度が高い働き方だからこそ、求められることが増えることもあります。自分で仕事を管理する。離れた場所にいる相手へ情報を共有する。成果に責任を持つ。

こういった背景が伝わっていないと、入社した人から見れば「聞いていた話と違う」になり得ます。

また、条件面の魅力を強く出した結果、会社や事業そのものより、その条件だけを見た応募が増えることもあります。応募が増えれば、採用がうまくいったように見えます。

ただ、その人が求めているものと会社が実際に渡せるものが違えば、選考のどこかでズレが出ます。
入社まで気づかなければ、そのズレを持ったまま働き始めることになります。


判断に必要な情報はどこまでか

では、仕事内容を細かく書けばいいのかというと、それだけでも足りません。

業務内容を読めば「何をするか」は分かります。ただ、詳細な業務一覧を読んでも、自分に合う仕事かどうかは判断できません。
判断に必要なのは、その仕事を取り巻く条件のほうです。

採用情報を整理するときに確認しているのは、たとえば次のような点です。

  • 入社後にどこまでの役割を期待しているのか
  • どんな状態を成果として評価するのか
  • 自分で判断できる範囲はどこまでか
  • 誰とどのように連携して仕事を進めるのか
  • その環境で働くうえで難しく感じやすいことは何か
  • 会社が渡せるキャリアと、本人が希望するキャリアが重なるか

これらを渡す目的は、自社をよく見せることでも、候補者を安心させることでもありません。
入社前に、双方の期待値を合わせることです。

すべてを求人票に詰め込む必要はありません。求人票、採用サイト、社員インタビュー、面接。接点ごとに渡せる情報量も、伝えられる質感も違います。

決めておきたいのは、どの情報をどの接点で渡すかです。
求人票で条件を、面接で期待と難しさを、といった分担が決まっていれば、候補者は選考が進むにつれて判断材料を増やしていけます。
分担が決まっていなければ、どの接点でも同じ話が繰り返され、判断材料は増えません。


対等に判断できる状態

企業が情報を出せば、すべてのミスマッチを防げるわけではありません。
転職先を選ぶ求職者側も、自分が仕事に何を求めるのかを考える必要があります。

ただ、求職者が自分の価値観を理解していたとしても、企業側から判断材料が出ていなければ比較はできません。

採用する側にとっては、一つのポジションを埋める活動かもしれません。
しかし、求職者にとっての転職は、これから何年をどこで過ごし、どんな経験を積むのかを左右する選択です。

だからこそ、企業と候補者が対等に判断できる状態をつくることが必要だと考えています。

会社が必要とする経験やスキルだけを見るのではなく、候補者がこれから何をしたいのかを聞く。
その希望と、自社で実際に渡せる仕事や環境が重なるのかを見る。 合わないなら、無理に魅力的に見せない。

採用広報の役割は、自社をできるだけ魅力的に見せることだけではありません。
選んでもらうための情報ではなく、相手が選ぶための情報を渡すことです。

すべての職種で一度に揃える必要はありません。まずは、会社の名前に頼れない職種から手をつける。
そこが最も情報の足りていない場所であり、整えた効果がいちばん早く出る場所でもあります。


書きにくい職種から、ご一緒します

「この会社でこの仕事をする意味」が書けないのは、情報がないからではありません。
社内では当たり前になっていて、言葉にする機会がなかっただけ、という場合がほとんどです。

そして当たり前になっていることは、中にいる人だけでは取り出しにくい。

MMOLでは、実際の現場に入りながら採用支援をしています。
応募者と向き合いながら、期待する役割や成果の基準、任せられる範囲を社内から引き出し、求人票、選考フロー、面接での伝え方まで一貫して設計します。

まずは一職種からでも構いません。求人が書きにくいと感じている職種があれば、そこからご相談ください。

資料請求・お問い合わせはこちら▶︎ https://mmol.co.jp/pages/contact


出典:The Burning Glass Institute「Good Company, Wrong Job」(2026年7月) https://www.burningglassinstitute.org/research/goodcompanywrongjob

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