第1回|実店舗を出す前に決める、ブランド実店舗の役割と勝ち筋

第1回|実店舗を出す前に決める、ブランド実店舗の役割と勝ち筋

人と仕組みで育てる、成果につながるブランド実店舗の設計と運営

|狩野雄

全12回で考える、ブランド実店舗の設計と運営。その第1回です

この連載「人と仕組みで育てる、成果につながるブランド実店舗の設計と運営」は、全12回で、ブランド実店舗を“つくること”ではなく、“運営できること”“成果につながること”まで含めて考えていくシリーズです。

対象にしているのは、toCビジネス、つまり生活者を主なお客様にした商売です。アパレル、コスメ、食品、ライフスタイル雑貨、D2Cブランド、小売などを思い浮かべてもらうと近いはずです。店を出すこと自体がゴールではなく、生活者に選ばれ続ける接点として実店舗をどう機能させるか。今回は、その入口になる「店の役割」と「勝ち筋」の話をしたいと思います。

この連載を書いている私は、MMOLで企業の構想整理や実装支援に関わる一方で、2025年に神奈川県鎌倉市でスペシャルティコーヒーの焙煎所兼店舗を立ち上げ、今も実店舗を運営している狩野です。支援する側の視点だけでなく、自分でも店を持っているからこそ、理想論だけではない話ができると思っています。

この記事で持ち帰ってほしいのは、主に3つです。
ひとつは、自社にとって実店舗が何のために必要なのかを整理すること
ふたつ目は、出店前に決めるべき勝ち筋を、売上・運営・販路の観点から言葉にすること
みっつ目は、Googleビジネスプロフィール、POS、EC、LINEのような仕組みを、後付けではなく最初から役割の一部として考えることです。ここが見えてくるだけでも、店づくりの進み方はずいぶん変わります。
Google ビジネス プロフィールの始め方


いま実店舗を始めるのは、正直そんなに簡単ではありません

まず前提として、今の実店舗立ち上げは楽ではありません。
人手不足は小売やサービスの現場でかなり根深く、JILPTの調査では、過去1年間に求人募集時の賃金を引き上げた事業所は、正社員で49.7%、パート・アルバイトで55.8%でした。さらに、ICT投資で「業務効率は上がった」と答えた事業所は69.6%あった一方で、「人手不足そのものが解消した」と答えたのは35.4%にとどまっています。ツールを入れれば一気に楽になる、というより、人と仕組みを最初から一緒に設計しないと苦しくなりやすい。今はそういう状況です。
JILPT|人手不足とその対応に係る調査

ただ、難しいからといって、可能性が小さいわけでもありません。
経済産業省によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円、EC化率は9.8%でした。ECは伸びていますが、裏を返せば、物販の多くはまだオンライン以外の接点でも動いているということです。総務省の家計調査でも、2025年の二人以上世帯の消費支出は月平均314,001円で、前年比は実質0.9%増、名目4.6%増でした。消費が完全に止まっているというより、何に、どうお金を使ってもらうかの差が大きくなっていると見たほうが実感に近いと思います。
経済産業省|令和6年度 電子商取引に関する市場調査
総務省統計局|家計調査

立地や商材によっては、追い風もあります。
JNTOによると、2025年の訪日外客数は4,268万人を超え、年間で過去最高でした。観光や地域回遊があるエリアでは、実店舗が“売る場所”であるだけでなく、“見つけてもらう場所”として機能しやすくなっています。どのブランドにもそのまま当てはまる話ではありませんが、わざわざ足を運ぶ理由がある店には、まだ十分に伸びしろがあるということです。
JNTO|訪日外客数 2025年年間推計

決済環境も変わりました。
経済産業省によると、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%で、政府目標の4割を達成しています。今の実店舗は、ただ売り場をつくればいいわけではなく、在庫、顧客情報、再接触導線まで含めて考える接点になっています。ブランド体験と運営効率を切り離しにくい時代になった、と言っていいと思います。
経済産業省|2024年のキャッシュレス決済比率


実店舗はまだ必要か。私は「必要になりうる」と考えています

ECが伸びている時代に、あえて実店舗を持つ意味はあるのか。
ここについては、「ある。ただし、役割が曖昧なまま出すなら危ない」というのが今の実感です。

理由はシンプルです。
実店舗は売上の場にもなりますが、それだけではありません。試す場でもあり、理解する場でもあり、信頼をつくる場でもあり、再接触の入口にもなります。Harvard Business Reviewで紹介された4.6万人規模の調査でも、複数チャネルを使う顧客のほうが支出が大きい傾向が示されています。店頭かECか、ではなく、実店舗をブランド接点のひとつとしてどう置くかが大事になってきます。
Harvard Business Review|A Study of 46,000 Shoppers Shows That Omnichannel Retailing Works

逆に、役割が曖昧なまま出店すると苦しくなります。
売上も取りたい。世界観も見せたい。SKUも増やしたい。在庫も持ちたい。SNSにも映えたい。でも人は増やせない。そうなると、見た目は整っていても、運営がじわじわ重くなっていく。少人数ブランドにとって怖いのは、売れないことだけではなく、回らなくなることです。


最初に決めたいのは、「どんな店か」より「何を担う店か」

実店舗の役割は、ざっくり言うと次の5つに整理できます。

売上をつくる場
その場で販売し、客単価や購買率を取りにいく役割です。商品構成、回遊導線、決済の速さ、在庫の回し方まで、かなり実務寄りに設計する必要があります。

商品理解を深める場
ECだけでは伝わりにくい素材感、サイズ感、香り、味、使い方を体験してもらう役割です。アパレル、コスメ、食品、ライフスタイル商材では特に効きやすいはずです。

信頼をつくる場
立ち上げ初期のブランドほど、実物を見られること、店員と話せること、ブランドの姿勢が見えること自体が信用になります。

顧客接点を獲得する場
来店や購入を、その場かぎりで終わらせず、次の接点に変える役割です。LINEは2025年12月末時点で国内月間利用者数が1億ユーザーを突破していて、日本のtoCブランドにとって再接触導線としてかなり強い基盤です。
LINE ヤフー|国内月間利用者数1億ユーザー突破

ブランドのメディアになる場
店舗そのものがブランドの象徴になり、SNS投稿、口コミ、レビュー、地図検索、紹介の起点になります。Googleも、ローカル検索での見つかりやすさに、ビジネス情報の充実、営業時間の更新、口コミ返信、写真追加が関わると案内しています。
Google のローカル検索結果のランキングを改善するヒント

全部を一度に高いレベルでやろうとするより、まずは主役の役割をひとつ決める。少人数で始めるなら、そのほうがずっと現実的です。


実店舗スタートとECスタートでは、考え方が少し変わります

実店舗から始めるブランドは、店頭売上に意識が向きやすい一方で、固定費と人的負荷を抱えやすい傾向があります。だからこそ、店頭だけで完結させようとせず、Googleビジネスプロフィール、Instagram、LINE、簡易ECなどを早めに整えて、店の外でも接点が続く状態をつくることが大切です。
Google ビジネス プロフィールの始め方

一方、ECから始めるブランドは、「店頭ですべて売り切る」発想に寄りすぎないほうがうまくいきます。実店舗は、試着・試用・相談・受け取り・限定体験・ファン化の場として置いたほうが、ECとの相乗効果が出やすい。
Shopify POS
Shopify POSのように、実店舗とオンラインの在庫・決済・顧客データを一体で見られる前提の仕組みも、今はかなり組みやすくなっています。店舗をECのライバルにしない。この感覚は、最初の時点で持っておいたほうがいいと思います。


勝ち筋は、「役割 × 主役商品 × 販路」で見えてきます

実店舗の勝ち筋は、立地だけで決まるものではありません。
少人数ブランドなら、少なくとも次の3つを一緒に決めておくと、かなりぶれにくくなります。

まず、役割。その店の第一目的は何か。
次に、主役商品。ブランドを理解してもらう入口になる商品は何か。
そして、販路。店舗、EC、SNS、LINE、ポップアップ、卸の役割をどう分けるか。

この3つが揃ってくると、「どういう空間にするか」の前に、「どういう事業構造にするか」が見えてきます。物件や内装はもちろん大事です。ただ、それは役割が定まったあとに考えたほうが、やはり強いです。


出店前に、最低限ここまでは言葉にしておきたいです

物件申込の前に、最低限、次の5つは言葉にしておくのがおすすめです。

1つ目は、店の第一目的
たとえば「ブランドの世界観と主力商品の体験を伝え、LINE登録とEC再購入につなげる店」くらいまで言えれば、かなり設計しやすくなります。

2つ目は、店頭で必ず伝わってほしいこと
素材なのか、思想なのか、使い方なのか、背景なのか。ここが曖昧だと、接客もPOPもぶれます。

3つ目は、店で売るものとECで売るもの
全部同じでなくて大丈夫です。店頭は象徴商品と体験重視、ECはバリエーションと再購入重視、という分け方も十分ありです。

4つ目は、来店後に何を持ち帰ってもらうか
商品だけで終わるのか、LINE登録なのか、レビューなのか、会員登録なのか。ここで声がけも導線も変わります。

5つ目は、最初に見る数字
店頭売上、客単価、購買率、LINE登録率、レビュー件数、EC再購入率、在庫回転。全部でなくてもいいので、「何を勝ちとするか」は先に決めておくと後が楽です。


役割設計と一緒に、軽く仮置きしておきたい仕組みもあります

この段階で全部決め切る必要はありません。
ただ、役割を考える段階で「何で支えるか」をざっくり仮置きしておくと、かなり現実的になります。

Shopify POS
オンラインと店舗の在庫・決済・顧客データを一つの流れで見たいなら、有力候補です。

Square POSレジ
Square 在庫管理機能
まずは小さく始めたい、ポップアップや小規模店から入りたいならSquareも考えやすい選択肢です。

STORES レジ × STORES ネットショップ連携
STORESを使っているブランドなら、店頭連携もかなり見やすいです。

BASE × Square 連携プレスリリース
BASE起点で小さく実店舗を始めたいなら、この流れも押さえておきたいところです。

LINE公式アカウント
来店を一度で終わらせたくないなら、やはり強い接点です。

Klaviyo
EC比率が高く、メールやSMSも含めて接点を設計したい場合は選択肢に入ります。


まとめ

実店舗を出す前に最初に決めるべきなのは、物件でも、内装でもありません。
その店の役割と勝ち筋です。

今の実店舗立ち上げは、たしかに簡単ではありません。人手不足もありますし、固定費も軽くない。ただ、EC市場は伸び続け、消費もなくなってはいませんし、インバウンドやキャッシュレス化の流れも含めて、店を“接点”として活かせる余地はまだ大きい。だからこそ、勢いで店をつくるのではなく、少人数でも運営できて、ブランドにも成果にもつながる役割を先に決める。ここが出発点になるはずです。

第1回で、まず言葉にしておきたいのはこの一文です。
「自社の実店舗は、誰に、何を、どの接点で持ち帰ってもらうための場か」

次回、第2回では「ブランド力をつくる、シンボリックな商品設計の考え方」に入ります。
少人数で回る店ほど、なぜ“全部を並べる”より“象徴を立てる”ほうが強いのか。どんな商品がブランドの入口になりやすいのか。商品点数、比較負荷、接客時間、ECとの見せ方をどう整理すると無理が出にくいのか。そのあたりを、もう少し具体的に見ていきます。


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