第2回|ブランド力をつくる、シンボリックな商品設計の考え方

第2回|ブランド力をつくる、シンボリックな商品設計の考え方

人と仕組みで育てる、成果につながるブランド実店舗の設計と運営

|狩野雄

第1回で「店の役割」を整理したら、次に考えたいのは「何を主役に見せるか」です

この連載は、ブランド実店舗を“つくること”ではなく、“運営できること”“成果につながること”まで含めて考えていくシリーズです。

前回の第1回では、実店舗を出す前に、まず「その店は何のためにあるのか」を整理しました。まだ読んでいない方は、先にこちらを読んでいただくと、今回の話もつながりやすくなると思います。
第1回|実店舗を出す前に決める、ブランド実店舗の役割と勝ち筋

店の役割が見えてくると、次に必ず出てくるのが「で、何を中心に見せるのか」という話です。
売上をつくる店なのか。商品理解を深める店なのか。信頼をつくる店なのか。役割が違えば、主役にするべき商品も変わります。

今回扱いたいのは、ブランド力をつくる、シンボリックな商品設計です。少人数で回る店ほど、たくさん並べることより、「まずこれを見ればブランドがわかる」という商品をどう立てるかが効いてきます。

私はMMOLで企業の構想整理や実装支援に関わる一方で、2025年に神奈川県鎌倉市でスペシャルティコーヒーの焙煎所兼店舗を立ち上げ、今も実店舗を運営している狩野です。支援の現場でも、自分の店でも感じるのは、商品数の多さがそのまま強さになるわけではない、ということでした。むしろ少人数で運営するなら、何を入口にするかが見えているほうが、店頭も接客も整いやすい。今回はその話を、できるだけ実店舗に近いところから書いていきます。


商品数が多いことと、強い店であることは、あまりイコールではありません

実店舗の商品設計を考えるとき、「選べるほうが親切ではないか」「幅広く置いたほうが売れるのではないか」と思うのは自然です。もちろん、それで機能する業態もあります。ただ、少人数で運営するブランド実店舗では、選択肢の多さがそのまま強みになるとは限りません。

アソートメント研究では、品揃えを増やすことにはプラスもある一方で、情報過多や認知負荷、選択の難しさのようなマイナスもあると整理されています。さらに、選択過多に関する研究では、選択肢の数そのものより、比較の複雑さ、判断の難しさ、好みの不確実さが高いときに、選びにくさが強まりやすいことも示されています。

店頭で似た商品が並びすぎると、生活者は迷いやすくなり、スタッフは比較説明に時間を取られ、結果として売場全体が重くなります。少人数で回す店にとって怖いのは、売れないことだけではありません。選ばれにくい上に、回しにくい状態になることです。

だから、店頭に何を並べるかを考えるときは、「たくさん見せる」より先に、「まず何を見せるか」を決めたほうがいい。その順番が大事になります。


少人数で回る店ほど、“シンボリックな商品”が必要になります

ここで言うシンボリックな商品は、単なる売れ筋ではありません。
そのブランドを初めて見る人にとって、「まずこれを見ると、この店の価値がわかる」と言える商品です。

たとえば、アパレルならシルエットや素材感が最も伝わる定番。コスメなら、世界観と使用感を短時間で伝えやすい主力アイテム。食品なら、味・背景・価格のバランスがよく、初回体験の入口になりやすい商品。雑貨やライフスタイル商材なら、そのブランドらしさが最も凝縮されていて、贈答にも自家需要にもつながるもの。こうした商品があると、店頭の印象が締まり、接客の起点もつくりやすくなります。

要するに、シンボリックな商品とは、ブランド理解の最短距離になる商品です。

第1回で書いた「店の役割」がここで効いてきます。店の役割が「売上をつくる」なのか、「商品理解を深める」なのか、「信頼をつくる」なのかによって、主役に置くべき商品は変わるからです。役割が定まっていないまま商品を増やすと、“全部大事”な店になりやすい。けれど、生活者から見ると、全部が同じ熱量で並んでいる店は意外とわかりにくいものです。


参考になるのは、「主役商品」と「店の役割」がきれいにつながっている事例です

ここで、いくつか参考にしやすいブランドの例を挟みます。
大事なのは、そのまま真似することではなく、何を主役にして、店に何の役割を持たせているかを見ることです。

NUMBER SUGARは、かなりわかりやすい例です。
公式サイトでは、最初にできたのが「No.1」バニラ味で、味ごとにナンバリングしたキャラメルにちなみブランド名が付けられたこと、そして2013年に表参道の片隅に「キャラメルの専門店」としてオープンしたことが語られています。商品一覧でもNo.1バニラを代表的な入口として見せていて、ブランドの入口が非常に明快です。これは、最初に何を見せればブランドが伝わるかがはっきりしている店の好例です。
NUMBER SUGAR 公式サイト
NUMBER SUGAR 商品一覧

よーじやも、別の意味で参考になります。
よーじやは長く「あぶらとり紙のよーじや」として認知されてきたブランドですが、2024年のリブランディングでは、「おみやげの店」から「おなじみの店」へ変わっていくことを打ち出しています。公式サイトでは、京都発の肌ケアブランドとして日常を彩るアイテムをそろえていること、さらにカフェ展開も続けていることが案内されています。これは、象徴商品を持ちながら、店の役割を少しずつ広げている設計として読みやすい例です。主役商品があるからこそ、広げてもブランドがぶれにくい。そう考えると、かなり参考になります。
よーじや 公式サイト
HELLO NEW YOJIYA
よーじやカフェ一覧

Minimal - Bean to Bar Chocolateも、主役の立て方が参考になります。
公式サイトでは「引き算の哲学から生まれた、新しいチョコレート体験」を掲げ、商品カテゴリの先頭に板チョコレートを置いています。店舗まわりでも、店舗ごとに異なるチョコレート体験ができること、富ヶ谷本店では板チョコレートの食べ比べ体験が打ち出されています。これは、板チョコレートという象徴的な入口を持ちながら、店舗ごとに体験の深め方を変えている設計と読めます。
Minimal 公式サイト
Minimal 富ヶ谷本店

THE BRANTA BAKESTOREは、規模感も含めてかなり参考にしやすいブランドです。
公式サイトでは、2021年に神戸六甲で生まれたチーズケーキ専門店であること、そしてデンマーク産クリームチーズを使ったチーズケーキが「THE BRANTAのフラッグシップ」だと明記されています。現在の公式サイトでは、六甲と神戸元町の2店舗が案内されています。これは、主役商品が非常に明快で、その商品を軸に店を広げている好例です。商品点数の多さではなく、「まず何でブランドを理解してもらうか」がきれいに整理されています。
THE BRANTA BAKESTORE 公式サイト


売れている商品を主役にすればいい、というわけでもありません

ここは少し分けて考えたほうがいいところです。
「よく売れる商品」と「主役にすべき商品」は、重なることもありますが、必ずしも同じではありません。

主役商品を選ぶときに見たいのは、少なくとも次の4点です。

そのブランドらしさが伝わるか
説明負荷が過剰でないか
運営負荷が重すぎないか
次の購買につながるか

この4点で見ると、「売上は高いけれど主役にはしにくい商品」もあれば、「入口としては抜群だが、利益は関連商品や継続購入で取りにいく商品」もあります。この整理ができると、商品設計はぐっと現実的になります。

NUMBER SUGARのように“これがブランドの入口だ”と言える商品があるブランドもあれば、Minimalのように“入口は同じでも、店舗ごとに体験を変える”ブランドもある。主役とは、販売数だけでなく、ブランドの価値を最短で伝えられるかで見たほうがいいと思います。


SKUは“多いか少ないか”より、“構造が整理されているか”が大事です

SKUの話になると、「減らすべきか、増やすべきか」の二択になりがちです。でも実際には、数そのものより、どういう役割で並んでいるかのほうが重要です。

少人数で始めるブランド実店舗なら、商品構成はまず次の4層で見ると整理しやすくなります。

主役商品
ブランド理解の入口になる商品。最初に見せたいもの。

比較商品
主役商品を軸に、「こちらもある」と選択肢を広げる商品。数は絞ったほうが運営しやすくなります。

関連商品
客単価や満足度を上げる商品。セット、アドオン、補完材、消耗品など。

周辺商品
ブランドの広がりや編集性を見せる商品。あると豊かですが、最初から増やしすぎると重くなります。

この構造がないままSKUだけ増えると、店頭では全部を同じように説明することになり、補充も発注も重くなります。逆に、この構造があると、主役商品を中心に会話も陳列も組めるようになります。品揃えの強さは、数ではなく、選ばせ方が整理されているかでかなり変わります。


主役商品は、棚の中ではなく「店の中」で決まります

ここは実店舗ならではのポイントです。
主役商品は、商品単体の力だけで決まるわけではありません。どこに置くか、どう見せるか、どう出会わせるかまで含めて決まります。

公的な小売ガイドでも、似た商品をグルーピングすること、繰り返しや対称性で視認性を上げること、高利益商品を目線に入りやすい位置へ置くこと、店内に明確な通り道をつくることが推奨されています。限られた面積でも、見せる順番を整えるだけで印象はかなり変わります。

また、店頭ディスプレイに関する研究では、カテゴリーの近くに置かれたディスプレイほど購買に強く効きやすいことが報告されています。レイアウト研究でも、部門配置や通路設計が買い回り経路と商品の視認性を変え、それが衝動購買や売上に影響すると示されています。

実店舗では、商品設計と空間設計は別の話ではありません。何を主役にするかは、どこを通るとそれが見えるかとセットで考えたほうが強いです。


生活者にとって“選びやすい店”は、現場にとっても運営しやすい店です

この視点は、実務でかなり重要です。
生活者が選びやすいということは、スタッフが説明しやすいということでもあり、補充判断がしやすいということでもあり、欠品時に代替提案しやすいということでもあります。

たとえば、NUMBER SUGARのように主役商品がはっきりしているブランドは、来店者にとって「まず何を見る店か」がわかりやすい。よーじやのように、象徴商品を持ちながら店やカフェの役割を広げているブランドは、入口を保ったまま接点を増やしやすい。BRANTAのように、フラッグシップ商品を明確に掲げたうえで店舗展開しているブランドは、接客の軸も売場の見せ方もそろえやすい。

主役商品が見えてくると、現場の判断はかなり揃いやすくなります。


店頭とECは、主役商品をそろえつつ、役割を分けるくらいがちょうどいい

今回は実店舗側の話を中心にしてきましたが、店頭だけで完結するブランドばかりではありません。だから最後にひとつだけ付け加えると、主役商品は店頭とECでそろえつつ、見せ方は分けるくらいがちょうどいいことが多いです。

NUMBER SUGARは、キャラメルという主役が明確だからこそ、店頭でもオンラインでもブランドの入口がぶれにくい。よーじやは、あぶらとり紙という象徴を持ちながら、日常使いやカフェへ広げても認知が崩れにくい。BRANTAも、フラッグシップのチーズケーキを明確に掲げながら焼き菓子やギフトへ広げているからこそ、接点が増えてもブランドの芯が残りやすい。

共通しているのは、主役をぶらさず、接点の広げ方を変えていることです。ここは、第3回の販路設計にもつながるポイントです。


まとめ

少人数で回るブランド実店舗をつくりたいなら、商品点数を増やすことより先に、何を主役として見せるかを決めたほうがいい。これが今回の結論です。

商品構成は、在庫の話でもあり、接客の話でもあり、陳列の話でもあり、導線の話でもあります。広く置くことが悪いわけではありません。ただ、全部を同じ熱量で見せようとすると、生活者にとっても選びにくく、現場にとっても回しにくくなりやすい。だからこそ、まずはブランドの入口になる商品を立て、その周りに比較商品、関連商品、周辺商品をどう置くかを考える。この順番が、少人数運営には合っています。

第2回で、まず言葉にしておきたいのはこの問いです。
「このブランドを初めて知る人に、まず何を見てもらえれば価値が伝わるか」

次回、第3回では「実店舗とECをどう役割分担するか。成果につながる販路設計」に入ります。店頭とECで同じ商品を扱っていても、同じ役割を持たせる必要はありません。どこで体験してもらい、どこで買ってもらい、どこで再接触するのか。第2回で決めた“主役商品”を、今度は販路全体の中でどう生かすかを掘り下げていきます。

参考リンク・参考文献


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