店の商品設計まで見えてきたら、次は「どこで何を担うか」を決める段階です
この連載は、ブランド実店舗を“つくること”ではなく、“運営できること”“成果につながること”まで含めて考えていくシリーズです。
第1回では、実店舗を出す前に整理したい「店の役割」と「勝ち筋」を扱いました。第2回では、その役割を生活者にどう伝えるかという観点から、「何を主役に見せるか」という商品設計を掘り下げています。ここまで来ると、次に出てくるのが、その商品や体験を、実店舗とECのどちらでどう担うかという話です。
第1回はすでに公開しているので、まだ読んでいない方は、先にこちらを見ていただくと流れがつかみやすいと思います。
第1回|実店舗を出す前に決める、ブランド実店舗の役割と勝ち筋
この回で扱いたいのは、「オンラインとオフラインをどちらもやるべきか」という二択ではありません。大事なのは、役割を重ねないことです。店もECもどちらも持つとして、それぞれが同じ仕事をすると、在庫も導線も接客も販促も複雑になります。逆に、役割をうまく分けられると、少人数でも無理が出にくくなります。
私はMMOLで企業の構想整理や実装支援に関わる一方で、2025年に神奈川県鎌倉市でスペシャルティコーヒーの焙煎所兼店舗を立ち上げ、今も実店舗を運営している狩野です。支援の現場でも、自分の店でも感じるのは、「販路を増やすこと」自体が成果を生むわけではない、ということでした。成果に近づくのは、生活者にとって使い分けやすく、運営側にとっても判断が揃いやすい販路設計ができたときです。
ECが伸びている今でも、実店舗の役割はなくなっていません
まず前提として、今の生活者はオンラインとオフラインを行き来しながら買い物をしています。経済産業省によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円、EC化率は9.8%でした。総務省統計局の家計消費状況調査でも、2025年のネットショッピング利用世帯の割合は56.9%で、前年の55.3%から1.6ポイント上がっています。ECはもう特別な販路ではなく、かなり日常的な購買チャネルになっています。
経済産業省|令和6年度電子商取引に関する市場調査
総務省統計局|家計消費状況調査 ネットショッピングの状況(2025年)
ただ、それは「店が不要になった」という意味ではありません。Google Adsのヘルプでは、実店舗への来店が重要なビジネス向けに、オンライン広告がどれだけオフライン来店に影響したかを測る「store visits」が案内されています。Google ビジネス プロフィールでも、確認済みのビジネスだけがGoogle マップやGoogle 検索に表示され、情報を正確かつ最新に保つことが視認性向上につながると説明されています。今の実店舗は、物理的な売場であると同時に、オンライン上で見つけられ、比較され、来店の判断材料になる拠点でもあります。
Google ビジネス プロフィール|ビジネス情報が Google に表示されるようにする
Google Ads Help|About store visit conversions
ここで重要なのは、オンラインが伸びるほど、実店舗の役割が変わるということです。昔のように「在庫を持って、そこで売り切る場」としてだけ店を考えると、ECと正面衝突しやすくなります。一方で、店を「試す場」「理解する場」「相談する場」「受け取る場」「信頼をつくる場」として設計すると、ECと競合するどころか、全体の成果を押し上げやすくなります。ここは、第1回と第2回で整理してきた店の役割や主役商品ともつながるところです。
実店舗とECは、同じものを売っていても、同じ役割を持つ必要はありません
ここを整理しないまま販路を増やすと、かなりの確率で運営が重くなります。よくあるのは、店頭にもECにも同じ商品を並べ、同じ説明をし、同じ販促をかけ、同じKPIで評価してしまうケースです。そうすると、生活者にとっては「どちらで買えばいいのか」が曖昧になり、運営側にとっては在庫の持ち方、欠品時の判断、販促の優先順位がぶれやすくなります。
少人数のブランドで大事なのは、チャネルを増やすことより、役割を分けることです。
実店舗は、触れる、試す、相談する、納得する、ブランドを感じる、ということが得意です。
ECは、一覧で見る、検索する、比較する、在庫や価格を確認する、再購入する、いつでも買う、ということが得意です。
この違いを前提に設計すると、「店とECの両方を持っているのに、むしろわかりやすい」状態を作りやすくなります。これは、単なる理屈というより、生活者の行動の流れに合わせる発想です。
販路設計で最初に決めたいのは、「どこで出会い、どこで納得し、どこで買い、どこで戻ってきてもらうか」です
私は、実店舗とECの役割分担を考えるとき、まず次の4つに分けて考えることをおすすめしています。
① 出会う場所
ブランドや商品を初めて知る場所。SNS、検索、広告、口コミ、通りがかり、ポップアップ、地図検索などです。
② 納得する場所
サイズ感、素材感、香り、味、使い方、比較ポイント、ブランドの背景などを理解する場所です。実店舗が強いことも多いですが、商品によってはECの読み物やレビューが効くこともあります。
③ 買う場所
実際に決済する場所です。必ずしも、納得した場所と一致しなくても構いません。店頭で試してECで買う、ECで比較して店頭で買う、どちらも自然に起こります。
④ 戻ってきてもらう場所
再購入、追加購入、ギフト購入、別カテゴリへの導線などを担う場所です。ここはECやLINE、メールのような継続接点が強いことが多いです。
この4つを分けて見ると、「実店舗とECをどう役割分担するか」がかなり整理しやすくなります。店とECの違いは、単に場所の違いではなく、生活者の行動のどの段階を担うかの違いです。
役割分担の型は、少なくとも4つあります
ブランドによって正解は違いますが、実務上はだいたい次の4パターンに整理できます。
1. 店舗は体験、ECは再購入
かなり王道の型です。店では試着、試飲、試用、相談、接客を通じて納得してもらい、購入や追加購入、色違い・サイズ違い・ギフト需要はECに寄せる形です。少人数でも回しやすく、店頭在庫を必要以上に膨らませにくいのが利点です。
2. 店舗は相談、ECは在庫と一覧性
高単価商材や比較要素の多い商材に向いています。店では相手に合わせた提案や説明を行い、ECでは仕様比較、商品一覧、在庫確認、注文を担います。店が“説明の場”として機能すると、ECは“注文の場”として活きやすくなります。
3. 店舗は受け取り・接点、ECは主販売
ネット注文が主軸でも、受け取りや取り置き、イベントや限定体験を店が担うと、接点の密度が上がります。無印良品の店舗受け取りサービスでは、ネットストアから24時間いつでも注文でき、指定店舗で受け取れ、配送料はかからないと案内されています。これは、ECの利便性と店舗の即時性・接点性を組み合わせる典型例です。
無印良品|店舗受け取りサービスのご案内
4. 店舗はブランドメディア、ECは売上基盤
立地や空間の意味が大きいブランドで有効です。店は世界観や信頼の拠点として機能し、売上の多くはECで回す形です。店単体の売上だけで評価しない前提は必要ですが、少人数でもブランドの厚みを出しやすい設計です。
この4つは排他的ではありません。実際には「1と4の組み合わせ」「2と3の組み合わせ」のように混ざることも多いです。ただ、主役の型を決めずに全部をやろうとすると、だいたい重くなる。ここはかなり現場的なポイントだと思います。
参考になるのは、「店に何をさせないか」まで決まっている事例です
ここでいくつか、役割分担の見え方が参考になる事例を挟みます。今回は、店とECの両方があることより、どちらに何を担わせているかが見えるかを重視して見ていきます。
SOÉJUは、このテーマにはかなりわかりやすい例です。
公式サイトでは、販売先をオンラインに絞ることで流通チャネルを最適化していることが説明されています。一方で、代官山の 「SOÉJU Fitting Room」 では、予約不要で試着ができ、スタイリストへの相談を希望する場合は別途スタイリングサービスも用意されています。さらに、Fitting Roomでは販売を行わず、購入はすべてオンラインストアで受け付けると明記されています。つまり、オンラインを販売基盤に置きつつ、実店舗側は試着・相談・納得の場として機能させている事例として、とても読みやすいです。
SOÉJU ブランドサイト
SOÉJU online store
SOÉJU Fitting Room
無印良品は、規模は大きいですが、役割分担の考え方自体はかなり参考になります。
公式FAQでは、店舗受け取りサービスについて、指定店舗で商品の受け取りができ、商品の配送料はかからず、24時間いつでもネットストアから注文可能だと案内しています。つまりECは注文の起点、店舗は受け取り・追加接点の場として機能しています。規模の大小にかかわらず、「買う場所」と「受け取る場所」を分ける発想は、中小ブランドにも応用しやすいはずです。
無印良品|店舗受け取りサービスのご案内
無印良品 FAQ|店舗受け取りサービスについて
THE BRANTA BAKESTOREは、小規模ブランドの参考例として見やすいです。
公式サイトでは、神戸六甲に店舗を構えるTAOCA COFFEEの姉妹店で、濃厚なチーズケーキをはじめ、パウンドケーキ、フィナンシェなどコーヒーに合うお菓子を提案すると案内されています。オンラインストアではチーズケーキ、クッキー缶、ギフトセットなどが展開されていて、店頭だけでなく、持ち帰りにくい需要やギフト需要の受け皿にもなっています。これは、店は体験・相談・提案、オンラインはギフトや広域需要の受け皿として機能している例として読みやすいです。
THE BRANTA BAKESTORE 公式サイト
BRANTA BAKE STORE ONLINE
よーじやも、少し違う角度から参考になります。
公式サイトでは、京都発の肌ケアブランドとして日常を彩るアイテムをそろえつつ、別サイトでオンラインショップを持ち、さらによーじやカフェも展開しています。つまり、物販と体験接点が並立している状態です。これは、「店舗=売場」だけではなく、ブランド接点としての店と購買導線としてのオンラインを併存させている例として見られます。
よーじや 公式サイト
よーじやオンラインショップ
よーじやカフェ一覧
こうした事例を見ると、強い販路設計は「全部を同じようにやること」ではなく、何をどこで完結させ、何を別チャネルに送るかが決まっていることだとわかります。
役割分担がうまくいかないブランドには、いくつか共通点があります
ここもかなり実務的です。実店舗とECの役割分担がうまくいかないブランドは、だいたい次のどれかに当てはまります。
1. 店とECで同じ売り方をしている
同じ商品、同じ見せ方、同じ訴求、同じKPIだと、生活者から見た使い分けの理由がなくなります。結果として、どちらも中途半端になりやすくなります。
2. どちらで何を優先して売るかが決まっていない
店では主役商品を見せたいのに、ECでは別の訴求をしている。あるいは、店頭では相談重視なのに、現場KPIが短期売上だけになっている。こういうズレが出ると、販路全体の設計が崩れやすいです。
3. 在庫と情報の持ち方が分かれすぎている
役割分担は、情報分断とは違います。在庫、顧客情報、レビュー、問い合わせ、欠品判断が分断していると、役割を分けたつもりでも運営負荷はむしろ増えやすいです。
4. 店単体で採算を合わせようとしすぎる
もちろん採算は大事です。ただ、店の役割が「試す」「理解する」「接点を持つ」寄りなのに、そこで完結する売上だけで評価すると、設計がすぐに苦しくなります。店頭売上だけではなく、EC再購入や会員化、レビュー蓄積のような指標も合わせて見たほうが、実態に近くなります。
少人数ブランドが最初に決めるべきは、「主販路」ではなく「主役割」です
ここは誤解されやすいところです。
店が主か、ECが主か、という問いから入ると、答えが粗くなりがちです。それよりも先に、何をどこで一番うまく果たしたいかを決めたほうが、販路設計はうまくいきます。
たとえば、
- 試してもらわないと魅力が伝わりにくいなら、店は体験に強くする
- 型番比較や再購入が多いなら、ECの一覧性を強くする
- 地域性や立地が強いなら、店をブランドメディアとして育てる
- ギフト需要や営業時間外需要が多いなら、ECを受け皿にする
という見方です。
この「主役割」が決まると、店頭在庫をどこまで持つか、ECに何を残すか、レビューやLINEやメールをどこで取りにいくか、どの数字を追うか、まで揃ってきます。ここが曖昧なままだと、販路は増えても運営は整いません。
最初の設計で、最低限ここまでは言葉にしておきたいです
第3回の段階で、少なくとも次の5つは言葉にしておくと、後がかなり楽になります。
① 店でしか果たせない役割は何か
試着、試用、相談、接客、ブランド理解、地域接点など。
② ECでこそ強い役割は何か
一覧性、検索性、再購入、ギフト、営業時間外購入など。
③ どの商品をどちらの主役にするか
第2回で整理した主役商品を、どこでどう見せるか。
④ 店で終わらせず、ECにつなぐ場面はどこか
サイズ切れ、色違い、追加購入、定期購入、ギフトなど。
⑤ ECで終わらせず、店につなぐ場面はどこか
初回体験、試着、香りや質感確認、相談、イベントなど。
この5つが定まると、「とりあえず両方やる」から一歩進んで、少人数でも回しやすい役割分担に近づけます。
まとめ
実店舗とECを両方持つこと自体が強みになるわけではありません。
強みになるのは、それぞれに違う役割を持たせられたときです。
ECが伸びている今でも、店の役割はなくなっていません。むしろ、試す、理解する、信頼する、受け取る、相談する、といった店の価値は、オンラインが当たり前になった今のほうが整理しやすくなっています。いっぽうで、一覧で見る、比べる、再購入する、営業時間外に買う、というECの強みもかなりはっきりしています。だからこそ必要なのは、「どちらが主か」を決めることより、どこで何を果たすかを決めることです。
第3回で、まず言葉にしておきたいのはこの問いです。
「このブランドは、どこで出会い、どこで納得し、どこで買い、どこで戻ってきてもらうと一番無理がないか」
次回、第4回では「少人数運営の土台をつくる、業務設計と役割分担の基本」に入ります。販路の役割分担が見えてきたら、次はそれを誰がどう回すのかを決める段階です。問い合わせ、受注、在庫確認、接客、補充、引き継ぎ。少人数で運営するなら、ここを感覚で抱えないことがかなり重要になります。
参考リンク・参考文献
- 経済産業省|令和6年度電子商取引に関する市場調査
- 総務省統計局|家計消費状況調査 ネットショッピングの状況(2025年)
- Google ビジネス プロフィール|ビジネス情報が Google に表示されるようにする
- Google Ads Help|About store visit conversions
- SOÉJU ブランドサイト
- SOÉJU online store
- SOÉJU Fitting Room
- 無印良品|店舗受け取りサービスのご案内
- 無印良品 FAQ|店舗受け取りサービスについて
- THE BRANTA BAKESTORE 公式サイト
- BRANTA BAKE STORE ONLINE
- よーじや 公式サイト
- よーじやオンラインショップ
- よーじやカフェ一覧